咳止め・鼻止め・下痢止めについて

「咳止め」「鼻水止め」「下痢止め」について

お子さまが辛そうにしていると、「少しでも症状を和らげて楽にしてあげたい」と思われますよね。しかし、小児科を受診しても、咳止め・鼻止め・下痢止めが処方されないことが多いと感じられたことはありませんか?

実はこれには、「お子さまの体を守るため・負担を減らすため」の医学的な理由があります。

1. 咳止めについて

「咳で受診したのに、なぜ『咳止め』ではなく『痰切り』が出されるの?」

 

・咳が出る理由と「痰切り」が処方される理由
咳が出るのは、気道に入ったウイルス、細菌、異物、そして「痰(たん)」を外へ追い出そうとする体の正常な防御反応(咳反射)です。

無理にこの反応を止めてしまうと、痰が体内に溜まり、気管に詰まってかえって症状が悪化することがあります。そのため、小児科では「咳を無理やり止める」のではなく、「痰切り(カルボシステインやアンブロキソールなど)で痰を出やすくし、結果的に咳を減らす」治療が基本となります。

 

・咳止めの種類とリスク


中枢性麻薬性鎮咳薬(コデインなど)
非常に強い副作用(重い息苦しさ=呼吸抑制、依存性など)があり、海外や日本で死亡例が報告されたため、現在は12歳未満の小児への使用が禁止(禁忌)されています。

中枢性麻薬性鎮咳薬(デキストロメトルファン、チペピジンなど)
アスベリンやメジコンなどの名称で知られる薬です。脳の咳中枢に作用して咳を抑えます。

 

咳止めの効果と注意点
「非麻薬性なら効くのでは?」と思われるかもしれませんが、「小児の風邪による咳に対して、咳止めが有効である」と明確に証明した研究論文はほとんどありません。 薬が入っていないニセ薬(プラセボ)と比べても、効果に大きな差がないという報告が主流です。

 

・効果の限定性:一部の研究(2023年、6〜11歳対象)でデキストロメトルファンが昼間の咳をわずかに減らしたという報告もありますが、夜間の咳には差が出ず、全体として明確な効果は期待しにくいのが現状です。

・副作用への懸念:一般的に安全性は高いとされていますが、脳に作用する薬であるため、乳幼児では眠気、めまい、腹痛、吐き気などの副作用が出やすい傾向があります。また、薬を使ったグループの方が経過が悪かったという報告(2019年)もあり、効果が不確実な中でリスクをとってまで積極的に使用することはおすすめしません。

2. 鼻止め(抗ヒスタミン薬)について

鼻水がつらそうなのに、なぜ鼻を止める薬が出ないの?」

 

・鼻水が出る理由と「鼻止め」を使わない理由
鼻水が出るのは、鼻の奥(鼻腔)に入ってきたウイルスや細菌、異物を外へ洗い流して追い出そうとする体の正常な防御反応です。

風邪による鼻水に対して使われる抗ヒスタミン薬(特に古いタイプの第1世代)は、風邪の鼻水に対する効果がほとんど確認されていないだけでなく、無理に止めようとすることでかえって症状をこじらせてしまうリスクがあります。

 

・鼻止めを使うことで起こりうるリスク
鼻水がドロドロになり、かえって咳が増える
鼻止めの成分には、体内の分泌物を乾かす作用(抗ヒスタミン薬の抗コリン作用)があります。これにより鼻水や痰の水分が奪われて粘り気(ドロドロ感)が強くなり、喉の奥にへばりついたり、落ちたりしやすくなります(後鼻漏)。 その粘り気のある鼻水や痰を出そうとして、かえって激しい咳を引き起こしてしまうことがあります。

急性中耳炎の悪化
小児急性中耳炎の診療ガイドラインでは、抗ヒスタミン薬は「投与すべきでない」と記載されています。分泌液がドロドロになることで、耳と鼻をつなぐ管(耳管)が詰まりやすくなり、治りを遅らせてしまうためです。

熱性けいれんへの影響
古いタイプ(第1世代)の抗ヒスタミン薬は、脳に作用してけいれんを誘発しやすくするリスクが指摘されています。(※必要な場合は、リスクの低い第2世代が選ばれます。)

 

効果があるケースと適切な対処法
抗ヒスタミン薬がしっかり効果を発揮するのは、風邪ではなく「アレルギー性鼻炎」が原因の鼻水です。

風邪の鼻水に対しては、薬で無理に固めてしまうよりも、「痰切り(カルボシステインなど)」で鼻汁をサラサラにして外に出しやすくし、こまめに「鼻をかんだり」、「鼻汁吸引(鼻吸い)」をしてあげることが、咳の予防にもつながる安全で効果的なケアとなります。

3. 下痢止めについて

「お腹を下してつらそうなのに、なぜ下痢止めが出ないの?」

お子さまの下痢の多くは、「お腹の風邪」と呼ばれるウイルス性腸炎や感染性胃腸炎です。病院では整腸剤が処方され、下痢止めが出ないことがほとんどです。

 

・下痢が起こる理由
下痢は、腸の中に侵入した毒素やウイルス、細菌を一刻も早く体の外へ排出するための正常な防衛反応です。

 

下痢止めを使わない理由
咳止めや鼻止めは「風邪に対して効果が期待しにくい」という理由で出されないことが多いですが、下痢止めは逆に「薬が効きすぎてしまい、それが悪さをすることがある」ため使用しません。

 

病原体を体内に閉じ込めてしまう
下痢止め(腸の動きを強く抑える薬)は効果が強力なため、ピタッと便を止めてしまいます。しかしそれにより、本来外へ出すべきウイルス・細菌や毒素が腸の中に留まり続け、回復が遅れるどころか病状が重症化することがあります。

※過去の「O157(腸管出血性大腸菌)」感染症でも、下痢止めを使用したことで重症化した例があり、非常に危険であることが分かっています。

腸が麻痺してしまうリスク
腸の動きを強力に止めてしまうことで、激しい腹痛や嘔吐を引き起こすだけでなく、腸が麻痺して完全に動かなくなる「麻痺性イレウス(腸閉塞)」という命に関わる重大な状態に陥る危険性があります。

 

そのため、薬で無理に止めるのではなく、整腸剤で腸内環境を整えながら、しっかり水分補給をして「原因物質を出し切る」のをサポートすることが、一番安全でリスクが低い治療となります。

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